SHUREのワイヤレスマイクが高すぎる話
- 1 日前
- 読了時間: 6分
更新日:4 時間前
こんにちは。エンジニアの梅木です。
このブログは、音の事にちょっとだけ人より詳しくなって、音楽をより楽しんでもらう事をコンセプトにつらつらと記事を書いています。寄り道多めですがそれも楽しんで頂ければ幸いです。
SHUREのワイヤレスマイク
高いですよね。僕もそう思います。

SHUREはワイヤレスマイクのメーカーとして世界的に有名で、プロの現場でも非常によく使われています。ただ、SHUREのワイヤレスといっても価格帯がかなり幅広くて、安いものから高いものまでいくつかのシリーズに分かれています。今日はその話をしようと思います。
SHUREのワイヤレスシステムは大きく分けると、入門〜中級向けのSVXやBLX、中上級のSLX-D、プロ向けのULXD、そして最上位のAXTという並びになっています。
まずSVXやBLXといった安価なシリーズから話すと、価格は送受信機のセットで3〜5万円前後から手に入ります。個人で楽器演奏や小規模なイベントに使うには十分な性能で、音もちゃんと出ます。ワイヤレスマイクを初めて使う方や、たまにしか使わない方には悪くない選択肢です。
ただ現場で使うとなると、少し気になる部分が出てきます。
まず同時に使える本数の問題があります。SVXは使える周波数帯が少なく、同時に複数本使おうとすると混線のリスクが上がります。ひとりで使う分には問題ないのですが、5人、10人のアーティストが同時にワイヤレスマイクを使う現場では、管理が難しくなってきます。
音質の面でも、プロの現場で求められるレベルにするには少し厳しいところがあります。悪いわけではないのですが、有線マイクと並べて比較すると差が出やすいです。
ここで少し脱線して、2.4GHz帯のワイヤレスシステムの話をしようと思います。

LINE6のワイヤレスシステムをご存知でしょうか。価格が比較的手頃なこともあって使っているミュージシャンも多いです。音質も良く、出た当初はとんでもない物が格安で出てきたと話題になりました。
ただ、2.4GHz帯を使っているというところが現場では少し気になります。
2.4GHz帯というのは、Wi-FiやBluetoothと同じ周波数帯です。つまり会場のWi-Fiルーター、お客さんのスマートフォン、タブレット、イヤホンなど、あらゆる機器と同じ電波の帯域を共有することになります。
リハーサルの時は問題なく動いているのに、本番でお客さんが入った瞬間に電波が不安定になる、というのがこのシステムの一番つらいところです。お客さん全員がスマートフォンを持っていて、SNSを見たり写真を撮ったりしている。その電波が一気に会場に溢れるわけで、精神衛生上よくないです。
リハーサルで完璧に動作確認をしても、本番で同じ状況が再現される保証がない。音響エンジニアとして、本番中に「いつ電波が落ちるかわからない」という状態で仕事をするのは、かなりストレスがかかります。 というかもうまず間違いなく私は落ちるものとしています。
そしてもし本番中に電波が落ちて音が出なくなったとき、何が起きるかというと、お客さんの視点からは「音が急に消えた」という体験になります。
その瞬間、なんとなく会場の空気が「音響が悪い」という雰囲気になってしまうことがあります。実際には電波の問題でワイヤレスシステムが落ちただけなのですが、目に見えないものなのでお客さんには伝わりません。アーティストも困惑する。音響エンジニアとしては原因がわかっていても、その場で説明できるわけでもないし、すぐに復旧できるとも限らない。
これが辛い。主催には説明と別の提案をしていても辛い。
機材の問題なのに、音響が悪いという印象になってしまう。どれだけ丁寧に仕込みをしても、ワイヤレスの電波が落ちた瞬間にそれまでの努力が全部ひっくりかえります。
電波は目に見えないので、どうしようもない部分があります。どんなに腕のいいエンジニアでも、電波環境のコントロールには限界があります。だからこそ、システム自体の信頼性が重要になってきます。
以上の理由から、僕は全く使わなくなりました。
そこで登場するのがULXDです。
ULXDはSHUREのプロ向けラインで、価格は送受信機のセットで30〜40万円前後になります。SVXと比べると一気に値段が上がりますが、それだけの理由があります。
まず使用する周波数帯が違います。ULXDはWi-FiやBluetoothとは別の帯域を使っているので、お客さんのスマートフォンの影響を受けにくいです。会場が満員になっても、リハーサルと同じ状態で本番を迎えられる可能性がぐっと上がります。
音質も大きく変わります。ULXDはデジタル伝送を採用していて、音の圧縮と伸張の精度が非常に高いです。音響的な妥協をせずに使えます。
周波数の管理も格段にしやすくなります。多くの周波数帯を細かく管理できるので、大規模なイベントで20本、30本を同時に運用する場合でも安定して動作します。受信機側で各送信機の状態を一元管理できるのも助かるポイントです。
電池残量のモニタリングも受信機側でリアルタイムに確認できます。本番中に突然電池が切れて音が消えるという事故を防げるのは、プロの現場では非常に重要です。

さらに上のAXTになると、使用できる周波数帯がより広くなり、干渉への耐性がさらに高まります。電波環境が過酷な大型フェスや、複数のワイヤレスシステムが混在する現場でも安定して動作するように設計されています。音質もULXDからさらに磨きがかかっていて、どんな環境でも安心して使えるという信頼感があります。
プロの現場でULXD以上を選ぶ理由は、突き詰めると「安心して本番に臨めるかどうか」に尽きると思っています。
音響の仕事は本番が全てで、リハーサルで問題なく動いていても本番でトラブルが起きることがあります。ワイヤレスマイクは特に電波という目に見えないものを扱うので、どれだけ準備をしても予期せぬトラブルのリスクはゼロにはなりません。
だからこそ、機材自体の信頼性は高い方がいいです。SVXで問題なく動くこともありますが、ULXDで動かない場面でSVXが動くことはまずないです。安定性という点での差はかなりはっきりしています。
コストの問題は当然あって、20〜30万円のシステムをポンと買えるわけではないことはわかっています。ただ、プロとして仕事をする上での機材投資として考えると、ULXDは現場での安心感と音質を両立できるギリギリのラインだと感じています。
ULXD以上だと、機材のことをあまり心配せずに音作りに集中できます。本番中に「いつ電波が落ちるかわからない」というストレスなく仕事ができる。その差は長く現場をやっていると大きく感じるようになってきます。
良いワイヤレスマイクを使うのは、音質のためだけじゃなくて、本番を安心して乗り越えるためでもあります。機材に余計な心配をしなくていい分、音作りやアーティストのサポートに集中できる。それが結果的に良い現場につながっていくと思っています。

